イーノックカウ大神殿の観光が終わったもんだから、僕たちはイーノックカウの中央から外っ側の壁の近くにある商業区画へ戻ってきたんだ。
なんでかって言うと、大神殿を見に行ってちょっと遅くなっちゃったけど、みんなでお昼ご飯を食べようって事になったからなんだ。
と言うわけで、どこに行こうかな? って話になったんだけど、そしたらお父さんがいいお店があるよって言ったんだよね。
だからみんなして、そこに行こうって事になったんだ。
「今から行くところはな、安くてうまいから冒険者の間でも人気の店なんだぞ」
お父さんはこのお店に、若いころからよく来てたんだって。
でね、そのお店はお肉を煮込んだお料理が人気で、いっつもすっごく混んでて並ばないと入れないんだよって僕たちに話してくれてたんだけど、
「おお、あった。あそこだぞ」
「あれ? でも、誰も並んでないよ?」
お昼からちょっと時間が経ってるからなのか、だぁれも並んでなかったんだよね。
「おかしなぁ、普段ならこの時間でも数人は並んでるはずなのに」
でもね、お父さんが言うには、いつもだったらこの時間でもまだ並んでる人がいるはずなんだって。
「そうなの? でもよかったじゃない。ならばずに入れるんだから」
「確かにそうだな」
いつもとは違うかもしれないけど、お母さんの言う通りすぐにお店に入れるならその方がいいよねって事で、僕たちはそのお店に入ったんだ。
「いらっしゃいませ!」
中に入ると、お店の人が元気よくお出迎え。
こっちの人数を聞いて席に案内してくれたんだけど、その時に見たお店の中はお父さんが言ってたのとは違って結構すいてたんだよね。
って事は、お料理の味が変わっちゃったって事なのかなぁ?
そう思った僕は、お父さんにこのお店の料理人さんが変わっちゃったんじゃないの? って言ったんだ。
「いや、そんなはずはないと思うぞ。ここは店主が料理を作ってる店だからな」
でもお父さんはそんなはず無いって言うんだ。
それに、前来た時とお店で働いてる人がおんなじだから、店主が変わったって事もないらしいんだよね。
でもさ、だったらなんでこんなにすいてるんだろう?
「う〜ん。近くに別のうまい店でもできたって事なのかな?」
「そっか。他のおいしいとこがあったらそっちにもお客さんが行っちゃうから、この時間ならすいててもおかしくないよね」
今はお昼よりかなり時間が経ってるもんね。
前はこの時間でも何人かは並んでたって言ってたけど、それくらいの人なら他においしいお店ができてるんならいなくてもおかしくないか。
「そんな事より、早く注文しようよ」
僕とお父さんがそんな話をしてると、ディック兄ちゃんがお腹が減ったって騒ぎだしたんだ。
って事で早速注文。
このお店では何がおいしいかなんて僕たちは解んないから、お父さんが適当に注文して、僕たちはそれを待つことに。
でね、そのお父さんはと言うと、
「旅行の何がいいって、昼間っから酒が飲めることだよな」
エールって言う手話手話するお酒を頼んで、一足先にそれを飲み始めちゃった。
「もう、ハンスったら」
そんなお父さんに、お母さんはちょっと困り顔。
でも折角旅行に来てるからって、しょうがないなぁって言いながら飲ませてあげたんだよ。
「あっ、来た!」
ちょっと待ってたら、お料理が到着。
テーブルに並んだのはお父さんがおすすめだって言うお肉を煮込んだお料理やお野菜を炒めたもの、それにぎゅっと詰まったパンを薄くスライスしたものとか。
あと、お父さん以外はみんなコップに入ったセリアナのジュースが目の前に置かれたんだよね。
って事で、みんなで乾杯してから、お料理を食べ始めたんだ。
「このお野菜を炒めた料理、おいしいわね」
「村では食べた事ない味付けだけど、どんな調味料を使ってるんだろう?」
最初にお野菜を食べ始めたお母さんとレーア姉ちゃんがこんなこと言ったんだよね。
だからどんな味なんだろう? って思った僕は、さっそく小皿に取ってパクリ。
そしたらちょっと酸味があって、ホントにおいしかったんだよ。
「これって、なんか酸っぱい果物を使ってるんじゃない穴?」
「そうねぇ。ルディーンの言う通り、果物の汁と香辛料を使って味付けしてあるのかも」
何が使ってあるのかまでは解んないけどそれくらいの事は解ったし、とにかくおいし買ったから僕たちはニコニコしながらお野菜を食べてたんだよね。
「う〜ん。お父さんがこれがおすすめだって言ってたけど……」
ところが、先にお肉を煮込んだ料理を食べてたディック兄ちゃんがそんなこと言いだしたんだよね。
だから僕も、そのお料理をちょっと食べてみたんだけど、そしたら味付けはおいしいんだけど、お肉がちょっと硬いんだよね。
「おかしいなぁ。前来た時は、こんな肉を使ってなかったはずなのに」
でね、お父さんも僕と一緒に一口食べてみたんだけど、そしたらやっぱり、あれ? って顔になったんだ。
「硬いのもそうだが、肉のうまみや脂も前に食べた時とは全然違う。でも、なぜこんな肉に変えてしまったんだろう?」
「そっか。お肉が変わっちゃったから、あんまりおいしく無くなっちゃったんだね」
このお料理って煮込んであるお肉がメインだよね? なのに、そのお肉がおいしくなかったらお料理自体もおいしくないのは当たり前なんだ。
「お父さん。前はどんなお肉が使ってあったの?」
「どんな肉かって? そうだなぁ、柔らかいんだが弾力はあって、それに噛むと中から肉汁と脂が口に広がってとても美味しい肉だったんだぞ。そんな肉を使った料理が安く食べられたから、みんなここに通ったんだ」
お父さんはね、それが何の肉かまでは知らなかったんだけど、とっても安くておいしい肉だったんだって僕に教えてくれたんだ。
でね、そのあとお父さんは、あんまり人がいないお店の中を見渡したんだよね。
「しかし、そうか。この料理がこの店の一番のおすすめである以上、この料理にこんな肉が使われるようになってしまったら客足が遠のくのも無理はないな」
みんながこのお料理を食べに来てたのに、それがおいしく無くなっちゃったんならお客さんが来なくなるのは当たり前なんだよね。
でもさ、そんな事はお店の人だって当然解ってはずだもん。
だからなんでこんな事になってるんだろう? って僕たちが話してたら、
「それはこの街の近くの森に、異変があったからなんですよ」
その話が聞こえてたのか、お料理を運んでたエプロンをしたおばさんが、僕たちにそう教えてくれたんだ。